こんにちは、サクです。
今回も、今読んでいる世界標準の経営理論(入山 章栄著 ダイヤモンド社)についてご紹介します。
ボリュームが多い本ですので、今回は企業行動理論・カーネギー学派についての要約です。
カーネギー学派とは
カーネギー学派とは、企業行動理論(behavioral theory of firm : BTF)や知の探索・知の深化の理論の総称のことです。
この学派の牽引役となった方々が、ともに米カーネギーメロン大学の関係者だったからです。
カーネギー学派の根底には、経済学への批判があります。
経済学は市場メカニズムや社会全体の厚生を重視するあまり、
「企業・組織の現実の意思決定メカニズム」と軽視してきた
という主張です。
経済学における一般的な意思決定の仮定は以下となります。
- 合理性 企業は合理的意思決定する
- 認知の無限性 意思決定者は認知に限界がない
- 最大化 自社の利益を最大化する
- プロセスを重視しない
しかし、これらの仮定は現実ビジネスの意思決定をどこまで反映しているかは疑問となります。
限定された合理性
認知心理学に基づくカーネギー学派を特徴づける最重要の前提は以下となります。
限定された合理性
人は合理的に意思決定をするが、しかしその認知力・情報処理能力には限界がある
カーネギー学派の意思決定の特性は以下となります。
- 合理性
人・組織は合理的でなので、与えられた条件下で自信にとって最適な選択肢を求める - 認知の限界性
人・組織の認知には限界がある。意思決定者は限られた認知の中選択して行動する - サティスファイシング
現時点で認知できる選択肢の中から、とりあえず満足できるものを選ぶ - プロセス重視
限られた選択肢 → 現時点でのとりあえず満足できる選択 → 実際の行動
→ 行動することで認知が広がり、→ 新しい選択肢が見える → より満足な選択
という一連のプロセスとなる
「サーチ」と「アスピレーション」
カーネギー学派は、組織意思決定の循環プロセスモデルを以下のように提示しました。
参考:世界標準の経営理論 マーチ=サイモンの組織意思決定の循環プロセス
サーチ
サーチは、もともと認知が限られている組織(の意思決定者)が自身の認知の範囲を広げ、新たな選択肢を探す行動をいいます。
現状に対する満足度が低いほど、図表③にあるようにサーチを活発に行います。
他方で、組織は認知力に限界があるので、サーチは自身が直面している「認知の周辺」で行われやすいので、より遠くの選択肢をサーチしていくことが、企業の新しい知の創出、すなわちイノベーションにとって重要になります。
アスピレーション
アスピレーションとは、「自社の将来の目標水準」、「自社を評価する基準・目標の高さ」のことです。
人間・組織は認知に限界があるので、業績を評価するには何らかの基準をつくって「良かった」「悪かった」と単純化する傾向があります。事前に目標・目線(アスピレーション)を立て、それを「超えられたか、否か」が基準となりがちになります。
同業他社や自社の過去の業績と比較して、上を目指す心理が働いて、将来への目線が高くなってきます。
人・組織の慢心
人・組織は満足度が低いほどサーチをする傾向があります。逆に満足度が高まればサーチはしなくなります(矢印③)。サーチ行動はコスト、時間、認知的な負担がかかるからです。
これが組織・意思決定者に内在する「成功体験による慢心」を示しています。
確かによくセブンイレブンなどは成功体験を否定するような記事が載っていますね。
目線を高く保つために
業績期待が高い組織はアスピレーション(目標)が高くなる可能性があります(矢印④)。
これまでのパフォーマンスがよければ、もっとできるはずと目線が高くなります。
一方アスピレーションが高くなれば、今度はそれに自社の現実が追いつかなくなるので、現時点での相対的な満足度は下がります(矢印⑤)
満足度が下がるとさらなるサーチをするので(矢印③)、それが業績期待向上に貢献するようになります(矢印①)。
目線を高く保つためには
うまくいっている時こそ、さらに目標を高くせよ
ということになります。
そうすることで「慢心」を乗り越え、さらに企業を成長させることが可能となります。
まとめ
カーネギー学派の理論から出てくる命題・含意は、日本を代表するような経営者の教訓・名言と一致することが多いと考えらます。
我々一般のビジネスパーソンは、その教訓の背景にあるロジックを「思考の軸」として納得しておくことの意義は大きいと著者は指摘されています。
実際に次章に続く経営理論は一般のビジネスパーソンにも腹落ちするものが多いと思いますので、ぜひ著書を一読していただければと思います。