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世界標準の経営理論③ 組織の経済学

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世界標準の経営理論③ 組織の経済学

こんにちは、サクです。

今回も、今読んでいる世界標準の経営理論(入山 章栄著 ダイヤモンド社)についてご紹介します。

ボリュームが多い本ですので、今回は組織の経済学についてご紹介します。



出発点は完全競争を崩すことから

「情報の経済学」もSCP・RBV同様に完全競争の条件が出発点となります。
特に今回は以下の条件に着目します。

ある企業の製品・サービスの完全な情報を顧客・同業他社が持っている。
(完備情報)

実際に同条件は現実のビジネス取引の多くには当てはまりませんよね。実際のビジネスでは提供される製品・サービスの質や取引相手の情報が完全にわからないことが多いからです。買い手・売り手の取引プレーヤーのどちらか一方だけが偏在的に特定の情報を持ち、もう一方が持たない「情報の非対称性」が常だからです。

情報の経済学①(アドバース・セレクション)

アドバース・セレクションとは

一方だけが知っている状態・価値のことを「私的情報」と呼びます。そして私的情報を持つプレーヤーに虚偽表示するインセンティブが生じ、結果として、虚偽表示をするプレーヤーだけが市場に残りがちになる減少をアドバース・セレクション(逆淘汰・逆選択)といいます。よく「悪貨は良貨を駆逐する」ともいわれています。

よく引き合いにだされるのが

  • 中古車市場
  • 就職市場
  • 保険
  • 投資、M&A

結果的に市場に参加する魅力がなくなり、本来なら成立するはずの市場取引が成立しなくなることが発生します。

スタートアップの促進や、国際的ビジネス活動の進展にもこの解消方法を理解する必要があります。

解消方法

スクリーニング

これは私的情報を持っていないプレーヤーがとる対処法
複数種類の商品を提示するなどし「顧客に選択肢を与える」ことで、顧客が勝手にみずからの私的情報に基づいた行動を取って、アドバース・セレクションが解消されるメカニズムをスクリーニングと呼びます。
ファーストフードのクーポンなどが一例です。

シグナリング

これは私的情報を持つプレーヤーのための対処法
相手に理解されにくい私的情報の代わりとなる「わかりやすく顕在化したシグナル」を外部に送ることで、情報の非対称性を解消しようとするメカニズムをシグナリングと呼びます。
就職市場での「学歴」などが一例です。

情報の非対称性はチャンスになりえる

情報の非対称性はチャンスにもなりえます。ある企業の情報の非対称性が高いということは、「その企業の私的情報は外部の誰にもわからない」ということになります。その私的情報を見抜く「目利き」ができれば、その情報はむしろ価値があって稀少なものとなり、ライバルを出し抜くチャンスになるからです。

情報の経済学②(エージェンシー理論)

エージェンシー理論とは

エージェンシー理論とは、あらゆる組織や人間関係を「依頼人(プリンシパル)」と「代理人(エージェント)」でとらえる経済理論で、依頼人と代理人はそれぞれ自己利益を追求するため、両者の利害が一致するとは限りません。モラルハザード問題ともいわれています。
モラルハザードが高まる条件としては、目的の不一致と情報の非対称性となります。

企業組織は、プリンシパル=エージェント関係の固まりといえます。組織を取り巻く様々な立場の人々が時にプリンシパルとなり、時にエージェントとなります。その時々の立場での合理的な判断の帰結として問題が発生します。その中で特に下記が問題になるケースがあります。

  1. ①部下(従業員)の管理・監督問題
  2. ②コーポレートガバナンス(企業統治)

株式会社制度には「所有と経営の分離」という原則があり、株主(プリンシパル)と実際に運営に携わる経営者(エージェント)と分けることができますが、経営者が株主の期待通りに企業運営をするとは限りません。よってプリンシパル=エージェント関係は、株式会社制度の本質として内在しているのです。
モラルハザード問題としては以下が議論されます。

  • 大胆な戦略が取れない経営者
  • 利益より企業規模を重視する経営陣
  • 経営者の報酬
  • 企業スキャンダル

これらは精神論的な解決策を叫ばれますが、そうではなくその問題の根源である「情報の非対称性」と「目的の不一致」を解消する組織デザインとルールを作ることが重要となります。

解消方法

モニタリング

モニタリングとは、プリンシパルがエージェントを監視(モニター)する仕組みを組織に取り入れて、「情報の非対称性」の解消を目指すものです。
例えば外部から取締役・監査役を受け入れることなどです。

インセンティブ

プリンシパルと目的の不一致があったエージェントに、プリンシパルと同じ目的を達成する(やる気を起こさせる)組織デザイン・ルールを与えることにより「目的の不一致」の解消を目指します。
例えば業績連動型の報酬

しかしこれらに解消法が常に機能するとは限らず、その一様な導入は難しく副作用をもたらしかねないという主張もあるようです。

日本で業績のよい企業統治パターン

多くの実証研究で、同族企業の方が非同族企業よりも業績が高くなる傾向が示されています。さらに同族企業のなかでも特に業績がよいのは「経営者が婿養子の場合」です。すなわち日本で最も業績が高い企業統治のパターンは「婿養子を迎えた同族企業」となります。
代表的なケースではスズキ自動車があげられます。

これは創業家から株主と経営者がでることによる「所有と経営の一致」となります。また主要株主(プリンシパル)と経営者(エージェント)が一枚岩で、両者がビジョンを共有しているので「目的の不一致」がないことによります。

解任リスクが小さいので大胆な戦略を打つことができ、長期視点の経営も可能となります。

取引費用理論(TCE)

取引費用理論(TCE)は、対象はビジネスの「取引」です。取引で発生する「コスト」を最小化する形態・ガバナンスを見いだすことがその目的であり、企業・組織をその一形態ととらえるものです。

ここで「限定された合理性」という考えが重要となります。これは「人の将来を見通す認知力には限界があり、人はその限られた将来予見力の範囲内で合理的に意思決定を行う」というものです。
企業に不測の事態が起こったとき、いかにコストをコントロールするかを思考する際に重要となります。

ホールドアップ問題

ホールドアップ問題とは、いったん行われてしまうと元に戻すことが難しく、しかも交渉の相手の強さを増してしまうような投資に関して発生する問題のことです。主に不完備契約(内容が不確実であるような契約)において発生します。

以下の3つの条件と1つの大前提がホールドアップ問題を引き起こす要因となります。

  1. ①不測事態の予見困難性
    不測の事態の予見の難しさ
  2. ②取引の複雑性
  3. ③資産特殊性
    これは2社のビジネス関係において、一方の企業のビジネスに不可欠な「特殊な資産・技 術・ノウハウ・経営資源」などが、もう一方の企業に蓄積されることです。
    自社のビジネスに必要な技術・ノウハウが外注先に留まってしまうような状況です。
    ITアウトソーシングがその典型
  4. 機会主義
    相手を出し抜いてでも自分を利する行動を「機会主義的な行動」と呼びます。
    相手がそのような行動を取る会社であることが前提となります。
    ※あくまで人・企業の合理的な意思決定として生じるものです。

解消方法

まずは取引相手のビジネスを自社で内製することです。市場ベースの取引を企業に「内部化」することで、取引にかかる様々なコストを解消することができます。
その一手段として、取引相手を買収するという選択肢もあります。

市場でのビジネス取引において、①不測事態の予測困難性、②取引の複雑性、③資産特殊性、の3条件が高い時は、市場での「取引コスト」がかかりすぎるので、むしろ取引相手のビジネスを自社内に取り込んでコントロールすべき

企業は全体のバランスを考えた中で、「外注か・内製か」の最適な判断をすべき、ということになります。

まとめ

組織が抱える構造問題の本質は何か、組織・個人がビジネス取引で直面する課題は何か、などSCP・RBVでは説明できない疑問に答えるのが、組織の経済学です。

一見見慣れない用語も出てきましたが、中小企業診断士試験で学んだ内容でしたね。その考え方の背景を理解することによって、実践で活用できるようになると考えます。

https://sakutetsu.com/book-23/

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